cancheerの考え方
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ロシアの「今」で民主主義を考える

日付

2006.05.14

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我が夫婦は二人とも「旧社会主義経済圏」で留学経験を持ちます。僕が中国、妻がロシア。両国はともに現在、市場経済制度を導入し、急速な発展段階に突入していますが、実際、両国の事情はまったく異なるようです。特にロシアは、民主化を先に進めたことが裏目に出てしまった上での、「離陸」でした。

 

米国防長官、ロシアのエネルギー政策と中国の軍事費に懸念=仏紙
 ラムズフェルド米国防長官は、ロシアによるエネルギー資源の政治利用や、中国の軍事費の不透明さに対し、米国が懸念を抱いていると述べた。現在はイランとアフガニスタンに向いている米国の関心も、将来的には中国やロシアといった大国の動向によって変わってくるとしている。11日付の仏フィガロ紙が伝えた。
 同長官は「莫大な天然資源を有するロシアは安全保障面で米国のパートナーだが、特定の分野ではとても協力的とは言えず、エネルギー資源を政治の武器として利用している」と述べた。 (Reuters、2006年05月11日)

 


ロシアの成長を後押ししているのは、何と言っても豊富な資源です。特に、原油価格の上昇で輸出国ロシアの外貨流入は潤い、さらに中東情勢の不安定化という状況では、外交上の「漁夫の利」を得ています。WTOへの加盟も時間の問題だという中、成長が続く経済は消費の拡大を促し、内なるエンジンも始動させてきました。ただし、ロシアの成長は非常に偏ったものであることも事実です。中央と地方の経済格差は開き、金持ちはさらに稼ぐという不公平な事態に至っています。それは、タイム誌の記事にも書かれてありました。

 

GETTING RICH IN THE HEART OF RUSSIA
With oil prices now more than $70 per bbl., Russia is awash in cash--and more of it is trickling down to ordinary people in ordinary places. Seven consecutive years of robust growth--currently about 6% a year after inflation--have transformed the country, giving birth to a consumer class and bringing signs of prosperity to the long-suffering hinterland. Although the distribution of wealth is far from egalitarian--the rich are getting a lot richer, corruption is endemic, and millions continue to struggle--the good life is in reach for more Russians than ever before. Victoria Grankina, a Moscow-based retail expert, estimates that 30% of the population lives "fairly comfortably" on monthly incomes averaging $1,000 for a family of four. The number of mobile phones has soared from 12 for every 100 Russians in 2002 to 88 today. Sales of new foreign cars jumped 60% last year. The poverty rate dropped from 41% to 20% from 1999 to 2002, according to the World Bank, and other studies suggest it is now even lower. (TIME、May 7, 2006)

 

「格差社会」で騒いでいる日本の比ではないのがロシア経済でしょう。ところが、憤懣やる方のないはずの彼らは、現在のプーチン政権に70%もの支持率を与えています。なぜでしょうか。僕が想像するに、その理由は、過去の性急な経済改革にともなう混乱期が幸いしたような気がします。たとえばロシアは90年代、異常なインフレ、原油価格の低迷、金融危機の発生など、相次ぐ経済問題に揺さぶられました。もはや「民」頼みのやり方ではどうにもならないとの危機感も生まれました。それに対し、有効な対策を打てない「腑抜け」な政府が、右からも左からも突き上げられ、国内を二分する事態を招きました。そこに登場したのが、現在のプーチン大統領です。最悪中の最悪時を経験した国民にとって、民主主義か連邦回帰かなどのテーマは二の次になったのです。実行できる政府、強権的な政府というニーズに、プーチンの手法は見事合致しました。

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Indeed, growing numbers of ordinary Russians appear willing to trade some liberties for the economic opportunities that stability provides. Sergei Kuznetsov, 32, is one Russian in a hurry to live better. He used to sell sausage from a kiosk in Kaluga's open-air market, a tough business under any circumstances and particularly after the 1998 crisis, when the government temporarily suspended debt repayments and devalued the ruble 30%. But the economy recovered much faster than anyone expected. Together with his wife and a friend, Kuznetsov scraped and borrowed to buy a crude packaging machine and set up a business selling sunflower seeds and other products. He buys seeds in bulk from farmers in Rostov, 250 miles away, roasts them and then sells them in nearby towns. Today Kuznetsov Seed Co. has annual revenues of about $1 million. Kuznetsov drives a silver Renault Scenic SUV while his wife, who has stopped work to remodel their apartment, dodges potholes in her new lime green Daewoo. "You can never be optimistic about anything in our country because if you're optimistic, it will end badly," he says. But he credits Putin with instilling confidence in the market: "There is no alternative to him. Stability is important for business." (TIME、同上)


「民主主義」って確かに、とても大事なことです。僕も、その価値を否定するものではありません。ただ、その意味が、米国流の政治制度を導入することだと第一義的に主張されるなら、僕の答えは「ノー」です。民主主義とは、国民が主役の政治的な仕組みのことを指します。そのために、とりあえず、国民からの最大の支持を得た政党が政権を担う仕組みと言い換えられます。このような観点でいくと、現在の中国は独裁政権だし、ロシア・プーチンの改革は「逆行」するもののように感じられるかもしれません。しかし、国民の不満がもっとも少ない社会と広範に定義したとしたら、各国の国情によって、民主主義の段階が多様になるのは当然のことです。

 

重要なことは、ロシアの状況が一変したとき、ロシアの政権が迅速な政策変更ができる(対応策を打てる)こと。間違っても、フィリピンのように、民主政治が経済発展の足を引っ張らないことです。衣食足りて、礼節を知る。ロシアの人々の良心や叡智を世界のために活かすには、まず、彼らに安定した国民生活を根付かせることが必要です。そのためにも僕たちは、自由主義原理主義のような偏見の眼差しをはずしておかなければならないと思います。

 

◆ ロシアは隣の国、新米オンナ社長の日ロ交流日記
“ロシア人をひとくくりにして「信用できない」と言わないで下さい”。・・その通りですね。ウチの奥さんも、ロシア留学をしていました。

◆ grevoの視点 「ロシアの国家再建」
“エネルギー分野だけでなく、航空機製造などの他の産業分野の国営企業設立へ乗り出す”。・・一見、逆行するようなロシアの改革が、近年の経済成長の秘密なのでしょうか。

◆ 櫻井よしこWebサイト
“政経不可分が崩れた日露関係 北方領土返還要求に対しては今は揺らがず”。・・いつも舌鋒鋭い櫻井さんの主張で、「過去の歴史を見れば、機会は必ずまたくる」のだそうです。勉強になります。ただ、僕には、待っている間の機会損失のほうばかりが見えて、必ずしも賛同できません。

◆ フォーサイトで日本と世界の情報を先取り
“ウクライナ議会選では、親ロシアのヤヌコビッチ元首相の野党「地域党」が勝利”。・・旧ソ連を構成していた周辺国の動向は、ロシアにとって極めて重要。逆に今、ロシア本体の経済成長が、周辺国の政治動向に大きな影響を与えているのは間違いありません。

 

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日本でも人気を集めるロシアのキャラクター「チェブラーシカ」が我が家にも(笑)

 

Posted by cancheer 02:20 AM | 固定リンク
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COMMENT

トラバありがとうございます。

>米国流の政治制度を導入することだと第一義的に主張されるなら、僕の答えは「ノー」です。
>各国の国情によって、民主主義の段階が多様になるのは当然のことです。
>重要なことは、ロシアの状況が一変したとき、(後略)

同感です。

Posted by: grevo: May 15, 2006 11:49 PM
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