cancheerの考え方
タイトル

緑の選択、復元・復興・再生

日付

2006.05.20

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脱ダム宣言。ちょっぴり懐かしい言葉になってきましたが、長野県知事の田中康夫氏が発表したときには度肝を抜かれました。その後、奇遇にも「親環境派」の僕の親友が、長野県の森林を守る仕事に採用されました。そんなこんなで、「緑の公共事業」が本格化するんだとの実感も湧きました。

 

財政再建の掛け声のもと公共事業が急減したのは、僕が社会人になった頃からです。当時、建設機械という業界で仕事をしていた僕にとって、売上が急降下するといういきなりシビアな現実に直面しました。そのせいでしょうか、僕は「緑の公共事業」という言葉に興味を覚えました。決して、自分の業界の仕事ほしさだったわけではありません。当時、公共事業とは一体何のためなのかを考え、調べた上での結論でした。社会で必要とされるニーズを満たすために、最も効率的にできるのが政府であれば、それは公共事業としてやるべきことなのです。そしてこれからの時代は、緑化の潜在的なニーズが、都市にも地方にも存在することを、あらためて知りました。

 

森林と向き合い、ずっとその身を奉げている僕の親友の言葉を引用しておきます。「森林は、今、人間による管理が必要になっている」。つまり、森林を作り直し、維持し、人間とともに生きていくには、人間の知的な関与が必要なのだそうです。緑は、人間にとって不可欠なものであるはずなのに、緑をどんどん都市から排除し、地方にて放置したままになっています。擬似的な緑の生活で窮場をしのぐ都会人、そして動植物と衝突を繰り返す地方。僕は、彼の言葉を借り、こう言いたいです。「自然は、今こそ、人間による管理が必要になっている」。つまり、本物の緑を少しでも多く導入し、共生を目指してマネジメントしていけるような社会を作るべきだと感じています。そんな僕は、都心部での「壁面緑化」や、「公共庭園」の実現などを政策アイデアとしてあたためているところです。

SAVING SEOUL
The greening of Seoul has ramifications that go beyond the mountains that ring the city. If this concrete jungle can shift into clean, sustainable urban development, then there's hope that other messy, environmentally challenged Asian cities like Beijing, Bombay and Jakarta can do the same. The South Korean capital's example could be especially instructive for its fellow Asian Tiger Hong Kong, where short-sighted political leadership has allowed the environment to degrade alarmingly (see story, page 21). "Seoul is an interesting model in terms of a megacity," says Karl Kim, an urban-planning expert at the University of Hawaii who has traveled back and forth to Korea for the past two decades. "There are lessons to be learned here about environmental management and sustainable development. You want to be able to not just do business, but to live in these cities." (TIME、May 8, 2006)

 

さて、いつもの通りタイム誌の記事ですが、ソウル市長がカジュアルな格好で川原に足を投げ出している写真が掲載されていました。周囲にはビルが林立しています。それもそのはず、ソウルのど真ん中だからです。清渓川(チョンゲチョン, Cheonggyecheon)。つい先ごろ、復元されたばかりです。三年前、清渓川はコンクリートで蓋をされ、その上に高架の高速道路を通し、一日に約17万台もの交通量を支えていました。ところが、李明博(イ・ミョンバク, Lee Myung Bak)氏が市長として当選すると、公約に従って、高速道路を撤去し、コンクリートを剥がし、水を流し込んだのです。何百年も前の自然に戻すことは不可能ですが、人が憩い、鳥が舞い降りることのできる全長5.8キロに及ぶ緑化エリアを企画しました。そして、昨年10月、清渓川復元イベント(ソウルナビへ)が催されました。

 

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朝鮮日報に詳しい記事がたくさんあります。

 

死んだ川がよみがえる。何もこれが、単なる感傷的な出来事ではありません。タイム誌も高い評価をしていますが、各国政府が積極的に取り組むあらたなモデル事業となる可能性があるのです。もともと、この川は、首都ソウルを支えてきたと同時に、流域住民を苦しめる存在でもありました。その歴史については、復元推進本部のサイトに詳しく書かれてありますが、20世紀のソウルは相次ぐ戦争によって自然が放置され、人間たちとの共存を拒んできました。その行き着いた先は、コンクリートで固めて、川を殺してしまうことだったのです。

 

小泉発言で注目、予算など高いハードル 〜日本橋に青空は戻るか〜
昨年末、英「タイムズ」紙に日本の醜い景観について記事を書いたレオ・ルイス記者は、日本橋川に突き刺さる首都高速の橋脚を「地獄から伸びた柱のようだ。戦後復興の思いは理解できるけれど、残すべきものを見失ったのは誤りだった」と話す。本来、東京を代表する観光名所であるべきこの地は、多くの外国人向け観光ガイドでは主要項目になっていないという。
 こうした状況下、保存会では、83年ごろから首都高速移設の検討を求め、橋の清掃行事や川の水質改善などPR活動を行ってきた。「地元のエゴではなく、日本の財産を取りもどしたい。日本橋をめぐる問題は、小泉首相のにわかな思いつきではないんですよ」と永森さん(名橋日本橋保存会事務局長)。 (朝日新聞“be Report”、2006年03月05日)

 

ソウルの一大環境事業は、実は、象徴的な側面のほうが大きいと言われています。象徴とは何か。「人」が変わることです。単純な例で言えば、ディズニーランド。駅のホームだったら、たばこやゴミを投げ捨てた人が、同地では、きちんとゴミの始末をして帰ります。悪臭を放っていた川には、ゴミなどがさらに投げ入れられていたそうです。ところが今度は、きれいな川原が整備され、多くの人がくつろぐ場所になります。誰が、良心の咎めなく、不用意なことができるでしょうか。そのうち、費用対効果がはっきりしてくると思いますが、ひとりひとりの心と態度を変えていくことは、極めて有効な手法だと推測できます。冒頭で紹介した親友も、人々がもっと森林に来て楽しめるようにすることを望んでいるのは、まったく同じ理屈です。

 

日本で言えば、緑化ばかりではなく、伝統と文化の再生というテーマで、似たような問題が浮上しています。それが、「日本橋の復興」です。いくらかかるのかと批判したところであまり意味がありません。これを復興し何を始めたいのか。日本橋だけにとどまらない視点で、東京の再生や緑化を論じていただければと思います。

 

Cheonggyecheon, which means "clear valley stream," has been a mirror of Seoul since the nation's capital was first moved there in 1394.

清渓川は、長らくその名に似つかわしくない姿をしていました。市民から忘れ去られ、煙たがられた存在でした。今、僕らに必要なのは、20世紀の負の遺産をひとつずつ剥がしていき、次なる時代のモデル図をそろそろ議論し始める時期なのです。

 

◆ ラジオNIKKEI/チャンネル・アジア「韓国・清渓川の試み」
“N環境問題に積極的に取り組むソウル市長の象徴的政策事業、2000万人の観光客”。・・公約を果たした市長、そしてさらに評価が高まる同政策。つい先日のレポートです。

◆ Dailyおかげん 「清溪川を散策」
“清溪川の西端から東へ向かって1kmほどを散策してきました”。・・やあ、写真お見事でした。ソウル日帰り旅行で十分行ける場所なんですね。

◆ 櫻井よしこ「盧大統領のライバル『ソウル市長』に聞く」
“誰もが・・思いながら、余りにも複雑な利害関係と工事のスケールの前に諦めていた”。・・政治家はいかに理想を実行に移すかが、評論家たちと一番違うところ。櫻井サイトはそんなところにも光を当てています。一年前の記事です。

◆ レイバーネット 「ソウル市内を流れる川」
“清渓川の「復元」を歓迎・・それが無力な貧民たちの生活基盤を失うことと引き替えだった”。・・なるほど。抗議運動もあったわけですから、損をする、実際の問題点などあるのかもしれません。

 

 

Posted by cancheer 01:12 AM | 固定リンク
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