cancheerの考え方
タイトル

愚直に感じてほしい:ミュンヘン

日付

2006.02.05


難しい作品。そんなありふれたひと言しか、出てこないかもしれません。なぜなら、祖国を守るため、みずからが立ち上がるしかないとは、反対しにくい高貴な言葉だからです。しかし、この映画で、ある心境を本当に疑似体験してもらったとき、この、正しく聞こえる言葉を再び支持できるでしょうか。


ニュースから、映画・雑誌・洋書のガイダンスまで。


退屈なストーリーではないのに、目を閉じてしまう。いっそ眠気に襲われないかなと、表情をこわばらせながら見ていました。しかも、突然に画面全体を覆う爆風や爆音。そむけようとしても、その先の光景は、僕の目を釘付けにしてしまいました。主人公のAvner(Eric Bana)は、祖国の防衛と報復のために、パレスチナテロ組織への暗殺活動へと身を投じます。ひとりひとり、殺していくたびに、わが身の心までもが暗殺者の感覚に染まっていくようです。祖国に残した妻子のことが何よりも気になる彼は、極秘活動の途中で、何度か「我」に返ります。この作品の最大のポイントは、こうした各場面での彼の心の変化とそこに刺激を与えたものが何であったかを見定めることだと思います。


●ミュンヘン事件への報復は国家犯罪か
    〜英語で歩く、噂の現場〜『洋画でちょいびき』

タイム誌がスピルバーグ監督に独占インタビューしたときも、『世界、ちょいびき!』で取り上げましたが、ついにその問題作が日本公開です。日本の多くの人の感想は、「重い」「つらい」「感動した」のようです。テロの悲惨さを伝えるには十分すぎるくらいリアルな映像が続きます。目をそむけたくなる緊迫シーンの次には、突如として画面を包む爆発の衝撃で、また目をスクリーンに戻してしまいます。私たちがこの映画を観たとき、なぜ、重たい雰囲気が残ってしまうのでしょうか。無力感でしょうか。絶望感でしょうか。勧善懲悪では描けないこの問題の複雑さに対し、監督は、「(両方に)生身の人間がいる」と提起しています。・・【続きを読む】
 ※英語版公式サイトには、日本語版にないリンクが用意されています。
ぜひ、英語も楽しんでください。


もちろん、スピルバーグ監督の視点は、暴力の連鎖に対する反対です。しかし映画は、できる限り中立に描くことで、作品にリアリティと説得力をもたせようとしたのだと思います。主人公をずっと見ていればお分かりになるでしょうが、自分自身が狙われるという恐怖を知ることによって、みずからの職務に対する疑念が生じます。敵を着実に殺していっているはずなのに、奴らはいくらでも湧いて出てくる。そして逆に、自分の仲間が消されていく。彼はこのとき初めて、暴力の連鎖が意味するところを感じるようになります。


・・とまあ、こんなことは、映画を観なくても想像できる話です。ただ、僕自身は、知ることと感じることは異質なものだと常日頃から思っていますので、まだ映画をご覧になっていない方は、ぜひスクリーンの前へ行ってもらいたいです。それが、映画という感情投入できる手法でメッセージを送ろうとした監督の・・、しかもリアリティを感じてもらえるように配慮されたこの作品の意味だからです。


暴力はダメ。特に、ルールのない暴力は絶対にダメ。青臭いメッセージが、本当に重要なことだと気付くには、主人公と同じようなことを疑似体験しなければ分かりにくいことだと思います。いつの時代、どこの場所にだって、頭のおかしい連中はいます。そんなほんのひと握りの過激な連中に口実を与えてしまい、まともな人間までが殺人やその被害の巻き添えを食うようなことは絶対許してはダメ。僕は、心からそう思います。



イスラエル政府のこうしたテロ国家のような実態が明らかになってからは、彼ら自身の足元でも多くの批判が沸騰しました。せめて、適切なプロセスやルールをもって、慎重に、「力」の行使をやってもらいたい。そのための協力を、日本や周辺国、力のある国々が取り組んでいくしかないと思います。「暴力」は連鎖になるがゆえに許さない。今一度、当たり前のことを肝に銘じたいです。




▼コメントの難しいテーマですが、他のブログの意見も聞いてみましょう。

ミュンヘン@映画生活

“この映画が語るのは、ナチスではなく・・今も続く政治体制の問題”
  →nikkeibp.jp 映画、斜め読みさん
“いい映画なんですが、恐いです。夢で暗殺者が爆破するんです”
  →夕刊フジBLOGさん
“テロを政治的な観点からではなく、一人の兵士の視点を通して描いた”
  →ライター・翻訳家 宮田りゅうさんのブログ
“あまり良い印象は受けない・・ものごとを俯瞰的に見る・・他人事・・”
  →映画缶-EiGACAN!-Movie Comment
“政府による暗殺指令、こういう事・・なんで映画になってるんだろう”
  →みんカラブログさん
“端っこの席に座っていたら間違いなく、途中退場してたと思う”
  →○o。.っっつつつっっつぶやき.。o○さん
“自覚した少数派は通常、多数派と協調し、彼らの秩序に順応しようとする”
  →日付のある紙片さん、テロがなぜ起きるのかに関心
“親ユダヤのイメージの強い彼が一変して、イスラエル人を悪役として撮っている”
  →HOSPITAL 460さん
“映画の感想を書くにはこれ以上難しいテーマはない”
  →Fantasium Journalさん、「まだ終わらない暴力の連鎖の一部分」
“ここで描かれる“ターゲット”は大体が、裕福で教養もあるアラブ人達”
  →「USAのんびり亭」映画情報さん


Posted by cancheer 04:40 AM | 固定リンク
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