cancheerの考え方
タイトル

クローンを作って考えてみよう

日付

2005.12.19

世界中の人々を驚嘆させた胚性幹(ES)細胞研究の成果に、いよいよイエローカード。研究者のひとりが、発表写真の一部に捏造があると証言したのです。一躍ヒーローになったはずの黄禹錫(ファン・ウソック、Woo Suk Hwang)教授が「捏造」を指示したというビックリ発言が飛びなす中、黄教授は論文の撤回を発表しました。


事件・ニュースから、映画・雑誌・洋書のガイダンスまで。


右の写真は、黄教授の研究が驚きと賞賛をもって紹介されたときのものです。(PBSニュース)

さて、あれから打って変わって最新のタイムのサイトには、彼のスキャンダルとしての記事が掲載されています。『Cloning Doctor Finally Answers Critics』。いつもタイムをガイダンスしている『世界、ちょいびき!』で扱うにはちょっと早すぎますが、黄教授のインタビューなら、先日ご紹介しました。
【もて遊ばれる生命倫理、クローンの権威が会見】をご覧ください。



さて、話を戻しますが、そのタイムの新しい記事から一部をご紹介し、僕の冒頭の説明を英語で確認しておきましょう。



While Hwang defends his credibility, he admitted to making "a lot of mistakes" and being "negligent in maintaining the stem cells."
黄教授はみずからの信用を守るため、彼が認めたのは、「たくさんの誤りがあった」こと。そして、「肝細胞を生かすのに油断があった」とも。

He also asked Science to withdraw his paper because of these lapses may have compromised his data. Editors at Science confirmed that they have received requests from both Hwang and a co-author, Dr. Gerald Schatten of the University of Pittsburgh, to withdraw the paper.
彼は《サイエンス》に対し、論文の取り下げを申し出た。これらの過失でデータの信頼性が失われたからだと。編集者が受けていたのは、黄教授からの他、共同研究者のジェラルド・シャッテン教授からの取り下げもだった。

The journal requires all 25 co-authors to agree to a retraction, and Hwang said the remaining requests were forthcoming.
雑誌側の要件は、25人の共同執筆者が取り下げに同意すること。黄教授によると、他の者もまもなくだという。

(以上、TIME誌・Cloning Doctor Finally Answers Critics


彼は「捏造」疑惑に関わらず、次のことを断言しています。


"What I can say for sure is that we did create patient-specific stem cells and we have source technologies to repeat them from scratch,"
(確かに言えることは、私たちが、患者の肝細胞を作り出し、その技術ももっていること。もう一度、再現することは可能だ。)


しかし、彼の疑惑に対しての答えは曖昧です。サイエンスへの論文提出にあたって、肝細胞株の写真を加工して11点に増やす指示を出した(ask his junior researchers to turn two or three stem cell lines into 11 by photographing them repeatedly for submission to Science)かどうかが問われています。ここでの対応の曖昧さは、疑惑の本丸である、卵子を入手する過程での倫理違反疑惑にまではねかえってきます。


やはり、一事が万事(One instance shows all the rest.)と言いますからね。



タイム誌の冒頭の文を読むとき、参考になる語彙です。ザッと目を通してみてから、挑戦してみてください。


  ◆sequestering【他動】隠退させる、引きこもらせる
  ◆psychiatric ward◇精神科病棟
  ◆embattled【形】敵に包囲された、追い詰められた
  ◆hold a press conference◇記者会見を開く
  ◆defiantly【副】反抗的に、ふてくされて
  ◆allegation【名】(非を行ったとする)申し立て、主張、疑惑
  ◆fabricated【形】組み立てた、でっち上げの、捏造した
  ◆history-making stem cell study◇歴史を作った肝細胞研究
  ◆elaborate on◇を詳しく述べる


さて、彼がクローンの誕生を成功させたと言ってもピンときませんよね。なぜなら、どうやってクローンを作り、どの段階が倫理上の問題を抱え、そして世の中の賛否両論とはいかなるものなのか。ほとんど多くの方が、ご理解されていないからです。


では、早速、クローンを作っちゃいましょう。もちろん、マウスで(笑)。行ってもらうサイトは、Genetic Science Learning Centerです。ここは、ユタ大学に属する研究部門です。さあ、実験はこちらからCLICK CLONE!【GO】。まず、中央のマウスをクリックしてみましょう。すると、画面が次のものに変わるはずです。



かわいい三匹のマウス。“Welcome”の下に書いてある中央の文字は、ここに見えている器具(5点)が、クローンに必要な道具だと書いてあるのです(Here you will find all the tools you'll need to clone Mimi)。ちなみに、三匹のマウスは、左から、クローンの対象となるマウスMimi(Brown色)、そして卵子を提供してくれるドナーマウスMedgo(Black色)、一番右が代理母(surrogate mother)となるマウスMomi(White色)です。


一番下にある“Let's Clone Mimi”をクリックしてみましょう。いかがです?


【1】Isolate donor cells from Mimi and Megdo
六つのステップが順番に紹介され、中央には二匹のマウスが並びました。その上に指示文書が示されています。“Remove a sometic cell”と書かれてあり、(Click and drag)と但し書きがついていますね。つまり、マウスの体内にある細胞(somatic cell)と卵子(egg cell)をそれぞれ、真下にあるpetri dishに移動させてみましょう。


これで第二段階です。
【2】Remove and discard the nucleus from the egg cell
卵子のほうを顕微鏡(microscope)の上に載せると画面が顕微鏡でのぞいたときの画面に変わります。右側のBlunt pipetteを卵子にくっつけ、左側のSharp pipetteで、卵子中央の核(nucleus)を抜いてしまいます。


さあ、第三段階です。
【3】Transfer the somatic cell nucleus into the enucleated egg cell
先ほどの卵子を、新しいdishの上に移し、もうひとつのほうの細胞もその皿の上に一緒にします。そして、再び顕微鏡の上に載せます。すると、また顕微鏡画面に変わり、先ほどと同じ要領でふたつのpipetteを使い、細胞の核が、すでに核の抜かれた卵子(enucleated egg cell)へと移植されます。


少々、時間を置いた後、次の段階です。
【4】Stimulate cell division
このとき、ある化学物質の液体(a drop of a liquid chemical)を、先ほどの皿の上にたらします。そして、またまたしばらくソッとしておくと、なんと、細胞が増えだしたではありませんか。


緊張の第五段階。再び、生命体の中に、この細胞を戻すのです。
【5】implant the embryo into Momi, the surrogate mother
あ〜、あ〜。代理母の体の中に吸い込まれていった移植卵子は、19日経ったあと、どうなっているのでしょうか。


【6】Deliver the baby mouse clone of Mimi
ギャアーーーー。ネ、ネ、ネズミが転がり出てきた(汗汗)。ん?クイズ?どんな色でしょう〜?こんなときに答えられるか・・・、ヽ(。_゜)ノ ン?・・答えてみましょう。


このマウスの遺伝子の、もともとはブラウン。
卵子を使ったマウスの色は、ブラック。
そして代理母の色は、ホワイトです。

答えは、実際にお試してください。



最後に、クローン作りの現実が分かったところで、倫理問題に戻りましょう。クローンって、何が悪いの?どんどん研究すればいいじゃないですか。そうお考えの方には、こちらに要領よくまとめられています。異論、クローン、オブジェクション??



CLONING   Can we and should we clone humans?

WRONG

×:decline in genetic diversity
遺伝的多様性が失われる

これは、抽象的で分かりにくい点ですが、今日、私たちが近親相姦を避けているのも、ほぼ同じ理由です。多様な遺伝子の交配でつねに多様な遺伝子を確保しておくからこそ、伝染病に対して生き残る種が存在します。また、エラーもまだまだ多く起こり得るわけで、実際、クローンに成功した羊のほとんどが正常とは言えない状態でした。

×:consider cloning unnatural, take the work of God into our own hands
自然の摂理に反し、神の行為を真似てしまうことになる

宗教的な発想ですから、日本人には、根拠に乏しい感情的・感傷的な批判という見方をされるかもしれません。しかし、自然界のバランスというものを、神にたとえて考えると理解しやすいでしょう。生態系が有している調整能力とは、極めて絶妙なものです。そこに、人間の作為が介在してしまうことで、今日の環境問題のようなことが生命の世界でもあちらこちらで起こると考えられます。



RIGHT

○:better engineering the offspring in humans and animals
良好な子孫を残していく

これは、相当具体的ですが、現在、病で苦しんでいる人々を助ける有力な技術でもあります。また、農業や畜産業でも、都合のいい家畜を選択的に増やしていくことも有用です。どんな技術でも悪用されながら、社会的な制度で担保してきました。クローン技術も同様かもしれません。


○:find cures to many diseases
様々な病気への解決策につながる

ひとりひとりの生命の尊厳と言うなら、今、病で苦しんでいる人、あるいはこれから苦しむであろう多くの人々に救いの手を差し伸べることは重要です。クローン研究が盛んになれば、臓器の提供や交換も可能になり、実験を積み重ねることによって対処法の開発も容易になります。

(以上、自主的に制作されたサイトですが、よくできています)


他にもたくさんの情報が書かれていますので、楽しく読めると思います。このサイトで出てきた英単語を検索すれば、類似サイトはいくつも発見できるはずです。それだけ、人々の関心が高い問題だからです。

長い歳月の中で培われてきた自然の摂理に恐れをなす人、そして目の前で苦しんでいる方々を助けようと考えている人、彼らの見ているものによって、クローンに対する結論は大きく変わります。もう少し、現実的な視点を含めるならば、問題点には、クローン技術を担保する社会制度の不備が挙げられるでしょう。素晴らしい技術も、悪用されれば恐るべき大量殺戮手段に変わります。また、クローン人間が作られたのち、彼らが感情や意思をもったなら、誰がどう処分を決定できるのでしょう。


クローン倫理の問題とは、研究が続けられる限り、極めて重大な社会制度上の問題でもあるのです。



▼クローンの問題に関する賛否、あるいは第三の意見です。

「韓国ES細胞スキャンダル:捏造、撤回、責任転嫁」(ニュースリンク集)
「共同著者・・米国ピッツバーグ大医大のシャッテン教授」(昨日の友は今日の?)
「クローン人間については,個人的には,不安ですが,臓器ならOKかな」(ほぉ)
「選ぶ親。選ばれた子ども。その間に、“見えないけれど確か”な愛情」(絆はあるか)
「韓国・・この問題を報じた番組のスポンサー企業がすべて降りる」(大丈夫?)
「また偽装かと思いきや・・11のES細胞のうち、9つは捏造」(偽装と同じですね)
「同じ人間が別のことを言うのか?」、メディアによる報道の違いを発見(さすが)
「名前は“黄”ですが、研究成果は限りなく“グレー”のよう」(座布団!)
「韓国のアカデミズムはしばらく国際社会から相手にされない」(ニュースクリップも)
韓国式「黄禹錫教授を中傷する奴は許さない→黄禹錫教授を糾弾」(笑える?)



Posted by cancheer 12:08 AM | 固定リンク
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