cancheerの考え方
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『男たちの大和』で伝えきれるものは

日付

2005.12.30

この映画に行く前は、日本の愛国心をあおる「正しい歴史」を示そうとした映画だと思っていました。ところがこの胸におさめてみると、従来と変わらない戦争観を描いたものだと感じました。『男たちの大和』というより、福井晴敏風のタイトル『亡国の夢・大和』??。


ニュースから、映画・雑誌・洋書のガイダンスまで。


日本のナショナリズムが再燃を世界に印象付けたこの一年。極めつけは、映画『男たちの大和』になりそうです。次々と倒れゆく兵士たちの無残な姿は、とても美しく散りゆく桜のようには見えませんでした。この映画は、少年兵たちの視点で描かれていただけに、もっと、つらくて、悔しい、日本の敗戦の瞬間を映像にしたものだと思います。


戦艦大和が戦場に登場する1942年〜45年にかけて、大人の男たちのほとんどはすでに戦場へ赴いていました。国内で駆り出せるのは、少年兵のみ。当時の政府首脳は、「一億総玉砕」の大義を掲げ、ほんのわずかな可能性を「神風」の言葉に託しました。そして、その犠牲になったのが、少年兵であり、戦艦大和です。「生」の意味を理解していないままの彼らが、死ぬ覚悟を口にするまでの様子をこの映画はとてもよく表現できていたと思います。


日本人に誇りと責任感を取り戻したいという製作者の意図は、反戦平和を訴える不朽のメッセージとともに成り立つことができるでしょうか。この映画のことを記事にした、ふたつのメディアを見てみましょう。まずは、ちょっと珍しいですが、「中東のCNN」と評されるアルジャジーラ(Aljazeera.Net)の英語版サイトから、この映画に対する記述をご紹介します。



Sixty years after it was sunk, the Imperial Japanese Navy battleship Yamato is about to recreate her final journey -in cinema screens across Japan.
60年前に沈没した、帝国海軍の戦艦大和が再びよみがえろうとしている。最期の航海が、スクリーンにお目見えするのだ。

“I want this to be more than just a successful film・・I want people to have more pride in Japan and a sense of responsibility.”
「この作品を、単に成功するという以上のものにしたい、日本人にもっと誇りと責任感をもってもらいたい」

(以上、Battleship Yamato resurfaces on screen―Aljazeera.Netより)

まずは、映画を製作した角川春樹氏の言葉を紹介しています。原作『男たちの大和』の辺見じゅん氏が実弟ともあって、相当気合が入ったことは間違いないのでしょうが、まさに大ヒットを予感させる時流をとらえたテーマであったことも事実。この辺りが、角川氏の嗅覚の鋭さを証明しているのでしょう。続きを読んでみましょう。



The largest battleship in the world when she cast off from the docks at Tokuyama, southern Japan, on 6 April 1945, the Yamato had been an icon for the nation when its empire stretched from New Guinea to the Russian frontier.
(当時なお)世界最大の戦艦として、大和が徳山を出発したのは1945年4月のことだ。国家のシンボルとされた大和の時代とは、帝国の戦線がオセアニアからロシアまで延びきった状態にあった。

In the last months of the second world war, however, the increasingly desperate Japanese leadership preferred suicide charges to surrender and pressed the pride of its fleet into the most spectacular of kamikaze raids.
第二次大戦の最終局面にありながら、ますます絶望の淵へと追いやられる帝国首脳は、降伏より玉砕の道を選んでしまった。彼らが推進したのは、艦隊の誇りである大和を、神風特攻の急先鋒に仕立てることだった。

Japan's relations with China and South Korea have been at a low ebb in recent months, largely over what its neighbours see as Tokyo's downplaying of its war-time atrocities.
日中、日韓関係は、この数ヶ月の間、非常に冷え切っている。日本政府が戦争犯罪を軽んじていることについての見方で言えば、だ。(経済関係は緊密なのに対して、という意味)


原作に忠実に制作しているだけでなく、史実をも正確に反映させようと苦心したところなどが、アルジャジーラーのこの記事にも取り上げられています。それは、製作者側の話をきちんと引用している点に、表れていると思います。さすがアルジャジーラ。佐藤純彌監督が語ったという三つのポイントを見てみましょう。



Firstly to focus on the thinking of the time and show that those who take power through force will lose it in the same way.
まずは、時代の考え方に焦点をあてました。示したかったのは、権力を手にした人々がそれを失うときの、共通点です。

Secondly that these were young and innocent people sent to their deaths and that it is clear those who bore the responsibility for that were the political leaders.
第二に、若者や罪のない人々を戦死に至らしめたのは、当時の政治家だったこと。

Thirdly, I wanted to look at the current state of Japan and what we must do to make it better.
最後に、私は日本の現状を考えたかったんです。今、何をしなければならないか。



そう話す佐藤監督は他のインタビューでも、愛する人を守るためには戦争をしない、戦争をしないためにはどうすればいいか、と問いかけています。この映画が、その問題に対する答を示してくれているかどうかは、議論百出だと思われますが、僕は、映画の中で、臼淵大尉(長島一茂役)の言葉が印象に残っています。

敗れて目覚める、それ以外にどうして日本が救われるんだ
いま、目覚めずしていつ救われるんだ オレタチはその先導になる


画像は、Yahoo!の『男たちの大和』特設サイトです。


そうやって、死を前に動揺する若者たちに、強烈なメッセージを送っていました。もうひとつ海外のメディアで、ガーディアン(英、Guardian)から引用してみましょう。


The ship and its hapless final hours have a certain resonance in the Japanese national psyche. For some that final mission was the epitome of youthful sacrifice, while others viewed it as an act of unforgivable folly by a leadership that already knew the war was lost.
戦艦と、不幸な最期の数時間は、日本人の国民心理の琴線に触れた。最期の使命とは、若者が犠牲になるという構図に表れていた。しかし、他方で、戦争に負けることを知っていた政治家たちの愚行だともみなせる。

But elsewhere in Asia the $25m film risks evoking bitter memories of the war and accusations that Japan refuses to recognise the costs of its wartime experiment with ultra-nationalism. The film, one of the most expensive in Japanese cinematic history, barely mentions the origins of the war or the events leading up to the ship's doomed final mission.
ただアジアの他の地では、2500万ドルをかけたという映画は、戦争の暗い過去をむしかえすものでもある。日本が戦禍によってもたらした巨額の損失を反省していないとの声もありえよう。日本の映画界では最高額を投じて制作されたこの映画は、かろうじて言及しているのは、戦争の発端、そして戦艦に宿命づけられた悲劇である。

・・“I feel very strongly that the anti-Japanese demonstrators were acting without knowing about Japan and it was the result of government propaganda・・My message is about people's courage to live, and I want people to start thinking again about how to live with self-awareness and pride as Japanese・・We don't label it an anti-war film, but the message is very clear. We are depicting the events of 60 years ago to get across the idea that we never want to go to war again.”
(いずれも製作者・角川氏の言葉)「強く感じるのは、反日行動なんてのは、日本のことを知らずに起こっている。政府のプロパガンダでもあった・・私のメッセージは、人々に生きることの勇気と、日本人としての自覚・自信をもって生きるにはどうすべきかを考えてもらいたい・・これを反戦映画とは位置づけていないものの、メッセージは明確だ。60年前のことを描き、戦争にもう生きたくないと伝えたい。」

(以上、Battleship epic reignites anger over Japan's wartime excesses―Guardian)


ここでも角川氏の強いメッセージが紹介されています。

僕は、海外の人々にぜひこの映画を見てもらいたいと思いつつ、果たしてこの映画で、どこまで理解されるのかという不安も抱えたままです。中国に留学していた僕は、場所が瀋陽(日中戦争の勃発した場所)だったせいか、喧嘩に何度か巻き込まれました。自分たちも同じ被害者だといくら説明しても分かってもらえませんでした。


さあ、もうひとつ、興味深いサイトをご案内しておきましょう。「神風」に関する、日米双方の視点を紹介しています。“KAMIKAZE IMAGES”です。

“American and Japanese images of kamikaze pilots differ greatly. This web site explores diverse portrayals and perceptions of the young men who carried out suicide attacks near the end of World War II. ”

(アメリカ人と日本人との神風特攻隊に対する印象はずいぶん異なる。このサイトは、第二次大戦末期、特攻して行った若者たちの肖像や認識などを多様な視点で考えてみたいと思う。)


それでは、まずアメリカ側の視点からです。


American military men on ships off Okinawa and the Philippines also watched many Japanese suicide planes bursting into flames and falling into the sea without ever reaching their intended targets.
米軍が、沖縄やフィリピンの船上で見たのは、多くの日本側の戦闘機が、炎を上げ海へと散っていく様だった。目的も果たせないままだ。

・・nearly all Americans know little more about "kamikaze" than the word itself. Most Americans realize the word refers to anyone who engages in reckless behavior without regard for personal safety. The media sometimes refers to terrorist suicide bombings as "kamikaze attacks" or "kamikaze bombings.
おおかたすべてのアメリカ人が、「神風」の言葉は知っていても、その意味するとは知らないままだ。安全をかえりみない無謀な行動と見ているくらいだろう。メディアがたまに使っているのは、自爆テロを神風などと呼ぶときだ。

Even in the years after censorship ended, there have been only a small number of English books giving the history of individual pilots・・but the books did not have any substantial influence on Americans' perceptions of Japan's kamikaze pilots due to their relatively limited distribution.
(戦後、)何年もの統制期間が終了し、(神風に関する)個々のパイロットたちの本が、わずかに英語版で出版された。しかし、アメリカ人には何の影響も与えることはなかった。販路すら乏しかったのだ。

(以上、American Views―Kamikaze Images)


ここではわずかな引用ですが、具体的な書籍や資料などをも紹介されています。また、言葉の定義や元寇にさかのぼる歴史なども記載してあります。逆に言えば、アメリカ人が神風のことを何も知らなかったのに、言葉だけは、日本のステレオタイプのように、広まってしまったとも言えるようです。


次は、日本側の視点です。


The Japanese people who said farewell to kamikaze pilots saw them wave goodbye with smiles and remembered them with affection. Those left behind saw nothing of either their being shot down from the sky or their crashing into American ships, so they remembered the pilots as young heroes who bravely went to their deaths in defense of their homeland.
日本人が神風特攻隊に別れを告げ、笑顔をもって見送った。そして、愛をもって記憶にとどめた。残された人々は、彼らが撃墜され、米軍に突っ込む様子などを目にすることはなかった。ただただ国土を守るために死んでいく彼らを英雄視するばかりだった。

Over the decades since the end of the American occupation in 1952, kamikaze pilots gradually have regained the status of national heroes that they once enjoyed during the final stages of the war.
米軍の占領が終わって何十年したのち、神風特攻隊は再び英雄として見直されるようになった。戦争の最終局面だった当時のように。

Japanese people today shed tears when they hear the stories and read the last letters of young kamikaze pilots who gave their lives in defense of their country. This tragic loss of life came about from the desperation of the Japanese military to come up with some strategy and battle tactic to stop the relentless advance of Allied forces toward Japan.

今日の日本人は、神風特攻隊の最後の手紙を聞いたり見たりして涙を流す。国を守るために散っていった命である。この悲劇は、日本の軍人たちによってもたらされた。軍部は、戦略をもって、列強の過酷な外圧を取り払おうとしていたのだ。

(以上、Japanese Views―Kamikaze Images)


他にもたくさんの記述がありますが、たいていは、日本人がすでに知っていることが書かれてあります。逆に言えばそれだけ海外の人は、なぜ日本が戦争に暴走し、大敗を喫するに至ったのかをご存知ないのです。



日米2つの視点で書かれてありますが、日本の真実に近づいてもらうためには、非常に興味深いサイトだと思います。僕たち日本人が見ても、タメになるはずです。映画『男たちの大和』はこのままいけば、興行的には大成功をおさめそうです。そして、どれくらいの戦争を知らない世代の人々が、戦争のことを日本人のひとりとして振り返ってくれるのでしょうか。


戦争を知らない世代に、戦場のすさまじさとえげつなさを知ってもらうためには巨額の資金が必要です。だから、佐藤監督をはじめ、製作の現場からすれば、絶好のチャンスだと感じたはずです。しかし、一方ではかかった資金を取り戻すだけの成功も必要になります。これが、映画のビジネスと芸術性の両立しづらいところです。その観点から考えるなら、僕は、十分合格点の映画だと思いましたが、みなさんはいかがでしょうか。


▼いつも見させてもらっているブログさんたちもたくさん燃えていました。

“公開12日目で100万人を突破し、東映58年の歴史で最速記録”
  →月ひかるさん ←他の映画との比較が面白かった
“戦後昭和との決別を果たす渾身のジャパンムービー”
  →エンタメ!ブレイク?2006さん ←私財投入の超大作、確かに!
“福井晴敏イヤーだったのだが、日本の戦争物で今年一番?面白かった”
  →とにかく、映画好きなもので。さん ←今年は多かったですね
“一般の名もなき兵士たちが描かれているので、とても身近に感じられ”
  →サロン・ド・すみれ♪さん ←僕も同じ感想でした
“昭和20年「水上特攻」という前代未聞の作戦に参加”
  →翻訳家 宮田りゅうさん ←宮田さんの文章は好きです
“「世界最大の浮沈艦」としてではなく、「様々な人の想いを載せた箱舟」”
  →多趣味ですがなにか問題でも? ←うますぎる!
“狂信的な精神主義の末路・・否、戦後も日本人は・・学んでいない”
  →西川りゅうじんさん ←集団自殺傾向がある日本人を嘆く!
“小さい頃に戦艦大和は何もせずに沈んだと聞いて”
  →Trace Am's Life to Successさん ←参戦していましたね
“中村獅童は凄いですね。参りました。何つっても、眼帯が似合いすぎ”
  →31歳独身男Kazuakiの映画日記さん ←演技派・獅童
“彼らを死に至らしめることなく引き止めたいと思う私は、当時なら非国民”
  →ココロにおいしいシネマさん ←彼らの言葉を受け止めたいです
“生きることの意味、平和の意味・・戦争は、無意味です”
  →週末起業サラリーマンの人には言えないここだけの話さん ←賛成!
“戦争賛美的な匂い・・戦争の惨さと理不尽さを描いた重厚な人間ドラマ”
  →銀河ブログさん ←重厚ってとっても難しいんですよね
“『負けてよかったんだ』的な描写が云々・・敗戦・戦後肯定はちょっとなぁ”
  →憂國変態妄想日記さん ←戦争のとらえ方となると議論百出
“監督がこの映画を通じて何を伝えたかったのかが非常に不明瞭”
  →帝国見聞録さん ←厳しい指摘だけど、その通りだと思います
“世の中には観たい映画もあれば、絶対に観たくない映画もあるわけで”
  →流線型事件さん ←こういう真逆が好きです、気持ちは僕も同じ



Posted by cancheer 06:28 AM | 固定リンク
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