なぜ「有頂天」か。仏教用語だそうですが、最高の中のさらに最高の場所というのが本来の意味。ただし、その上にはさらに仏の世界があり、有頂天の人間は「舞い上がっている」だけのことですから、この先には急降下するだけの危険な状態だとの示唆が含まれていますよね。

有頂天だった連中が、いずれもみずからの足元の危うさに気付いた。そんな年の瀬を、ともに励ましあうことになるというのが、この映画のラスト、カウントダウンイベントなんでしょうか・・ね。政治家（佐藤浩一）も、事業家（津川雅彦）も、演歌歌手（西田敏行）も、研究者（角野卓造）もみんな不安を抱えながらこのホテルにたどり着きました。あわただしい数時間が、ユニークな顔ぶれとともに幕を開けます。

さて、昨年（2005年）が福井晴敏三部作や『男たちの大和』などの戦争映画で話題をさらった一年ならば、2006年は、多彩なテーマで邦画の復活ぶりを示す一年になりそうです。その初陣を圧倒的な華やかさで飾る三谷幸喜（脚本・監督）氏の意欲作『THE 有頂天ホテル』。華やかなのはそのキャスティング。ポスターの一面を五段二行に分けて、千両役者がずらりと並び、総勢16名。同作品のホームページのキャストプロフィールでは、これが24名となります。スクリーンで観ているときには誰が何をしているんだか混乱してしまうほどのボリュームです。

　

2003年の大ヒット作となった『Love Actually』（英国）の作品と対をなすようなポスターですね。眺めているだけでワクワク感をそそります。

そんな過剰な期待を抱いて超特大スクリーンの前に座ったのですが、次から次へと絶え間なく続く小咄の数々。本人以外はどうでもいいようなことに、上へ下への大騒ぎとなるのですが、ジワジワとこみ上げてくる笑いは、まさにボディーブロー。話のつじつまがどうのこうのと気になる間さえ与えてくれません。特にあれは、「お芝居」ですよね、本当に。三谷さん自身が、ワンカットワンシーンにこだわって映像を作った通り、セリフ全部を言えるかな〜というような不安感とも臨場感とも言える緊張感いっぱいの作品でした（笑）。

さて、この邦画らしい邦画を、『世界、ちょいびき！』でも取り上げてみようとして、今回のテーマは『グランドホテル』になりました。実はこれ、70年以上前の作品で、アカデミー賞に輝いた当時の超話題作でした。ベルリンの超高級ホテルを舞台に、まったく関係のなかった人物たちが、見事に、人生模様を交差させていくんですね。日本でも、今は激安DVDとして販売されていたような気がします。

●有頂天ホテルが意識したのはアカデミー作品
　　　　〜英語で歩く、噂の現場〜『邦画でちょいびき』

映画『有頂天ホテル』・・見所は、たくさんの小咄が入り乱れての「壮大」(?)なストーリーですが、ワンシーンワンカットの舞台劇を思わせるような役者さんたちの熱演も見逃せません。強引だろうというストーリーも、ちょい役になった唐沢寿明も、そして「どうしようもない役」という角野卓造と伊東四郎のからみ、さらには西田敏行のサービスショットに至るまで何もかもが許せてしまう、そんな映画です。まあ、これだけの俳優さんを事前に魅了した企画だったのですから、面白くないはずはありません。他方、『グランドホテル』も、当時では、大変な騒ぎになっていたという文章がたくさん残っていました。では、この作品の人物関係をご紹介しておきましょう・・【続きを読む】
　　○オスカーの歴史から第五回受賞作品を紹介
　　○５人の大スターが演じた役柄とは
　　○すべて見ることができるスクリプト（台本）

三谷作品が好きだと言いながら、スクリーンで観たのは今回が初めてでした。舞台を大事にされているだけに、役者の使い方にはこだわりがあるような、それでいて役者さんからも愛される人柄みたいで、うらやましい限りです。作品として、人物として、内からも外からも愛されている三谷幸喜さん。早くも次の作品が楽しみです。個人的には、作品よりも、三谷さんのインタビューだったり、著書だったりに興味があるのですが、それは、言わなかったことにしておきましょう。

▼誠実な笑いが、彼の最大の魅力だと思いますが、他の方はどうでしょう。

＃ THE有頂天ホテル＠映画生活

＃ “『グランド・ホテル』(1932、米)に最大級のリスペクトを捧げていて”
　　→ネタバレ映画館さん
＃ “三谷幸喜の映画は・・「演劇の芝居くささ」と、お客を喜ばせるサービス精神に”
　　→skywave blogさんのシネマ日記
＃ “抜群の構成力で笑いを提供する「三谷ワールド」を体感”
　　→Rohi-ta_site.comさんの映画(ネタバレ有り！)
＃ “想像してたほどツボにはハマらなかったなぁ・・無難に楽しめる”
　　→いもロックフェスティバルさん
＃ “リンクしているにも関わらずシンプルな内容でわかりやく、反射的に笑い”
　　→やっぱり邦画好き…さん
＃ “面白いけれど，物足りない・・人混みの中を二時間歩いたような疲労感”
　　→Akira's VOICEさん
＃ “無駄なものは全く無し。下ネタやビックリネタ一切無し。大人な笑い”
　　→ひねくれＷＹＶＥＲＮ　〜泥棒にされた貧乏人の叫び〜さん
＃ “個性的と言われる俳優さんたち・・ぶつかり合って壊すことなく上手く調和”
　　→今日も映画、明日も映画♪さん
＃ “例によってマンガ的というか、やややり過ぎだろと思える所もチラホラある”
　　→日常の履歴さん