世界最大級の機体には、５つのセクションがあります。そのどこかに、わが娘がいる。そう信じた母親の執念は、飛行機を着陸させることでした。高度一万メートルのフライトミステリー。カメラの映像が明らかにしていく真実は、彼女にあるのか、乗務スタッフたちにあるのか。いくつもの恐怖が段々にこみ上げてくるスリラー傑作です。

『高度一万メートルの密室』

このナレーションを予告編で聞いた瞬間、僕は、見たい！とうなってしまいました。サスペンススリラーなんて、いつもはあまり観たいとは思わなかったのですが、この作品の予告編には徹底的にやられました。詳細に見せてくれる中盤までのストーリー。そして急に途絶える後半以降の手がかり。どっかで観た安っぽい結論でなければいいが・・と願いつつ、観に行かずにはいられませんでした。同作品は、昨秋には公開され、全米トップに立っていたのですが、日本公開はずいぶん後にされました。

同作品の緊張感は、主人公カイル（Kyle役、Jodie Foster）の表情のせいばかりではありません。機内の不穏な雰囲気が、何か、航空テロやハイジャック事件につながる予兆のように感じたからです。しかもカメラアングルが、何かを語ろうと、僕らに呼びかけています。僕自身はそれこそ何度も予告編を見て、中盤までの展開は知っているつもりでした。しかし、そこには予想以上に荒れ狂うジョディーフォスターがいて、狂気の母親を過度に強調しているような構図があります。となると、後半では母親が正しくて、犯人は別にいるという展開になるのだろうか。そう考えていたときに、あの保安官カーソン（Carson役、Peter Sarsgaard）のひと言。（確か、次のような内容・・ウロ覚え）

Who are your enemies? （誰が君を狙うというんだい？）
Why would they kidnap your daughter? （なぜ君の娘を誘拐するんだ？）
How is it possible on an airplane? （機内で何ができるんだ？）

確かにその通りです。彼の表情のない表情は、名演です。カイルに同情しているのか、徹底的に軽蔑しているのか、なかなか読めません。そうこうしているうちに、機内は混迷の度合いを深めていきます。あの状況では、カイルへの不信感が募っても無理はないし、民間航空機機長の対応も、精一杯ものでした。が、カイルは、それがなおさら腹立たしいものになります。

この作品の最大の山場は中盤。そこには一体、何が待っているのでしょう。そして、どう辻褄を合わせて、この作品のクライマックスへと導いていくのでしょう。この続きは、スクリーンでご覧ください。先行上映では、超満員でした。

●高度４万フィート、恐怖のわけは虚か実か
　　　　〜英語で歩く、噂の現場〜『洋画でちょいびき』

英語版になると、「一万メートルの密室」は「４万フィートの悪夢」と表現されています。映画の冒頭は、娘のジュリアが現実にいる存在として扱われますが、搭乗後、彼女のとった一瞬の眠り（take a nap）が、この物語の展開を大きく変えていきます。目を覚ましたとき、娘は消えてしまう（wake up, her daughter is gone）のです。この作品は、カメラアングルや映像の切り替えが巧みで、観衆を、恐怖の世界へとグッとひきこんでいきます。しかも、この作品で感じる恐怖とは、どこか違ったものです。次に紹介する論調では、恐怖は主に２つだとしています。ひとつは、最近の日本でもたびたび起こっている幼児誘拐事件に関わるような不安とも怒りともつかない犯罪恐怖。そしてもうひとつは、私たちが普段、飛行機の乗るときの、心のどっかにある潜在的恐怖です。・・【続きを読む】
　　○大ヒットを促す日米のナレーションは同じ？違う？
　　○この作品が示す「２つの恐怖」とは。
　　○思い起こされる「２つの作品」とは。

来日したジョディーフォスターのインタビュー【GO】では、もうひとつの恐怖に触れられています。それは『世界、ちょいびき！』でご紹介した、この作品が直接描く「２つの恐怖」のことではありません。彼女の指摘は、「無関心な人々」という日常生活の中の恐怖についてでした。娘が、機内の中で存在したのかどうかさえ、誰も関心を失っている現実。そう言えば、隣の住人が誰かなんて知らなくてもいい時代ですからね。

それに敢えて僕が加えるなら、「偏見を装う人々」です。人が人を、色眼鏡で見てしまうことは多少やむを得ないでしょう。しかし、どこかでわだかまりを持っているはずなのに、強引な説明で自分を納得させてしまう人々があまりにも多い（と描かれていた）ことに驚きました。厄介なことに巻き込まれたくないから、深く関わろうとしない。自分の中で疑問や好奇心を押し殺し、見て見ぬフリをするのです。この問題を論じるのに、今はくどくなりそうなので打ち止めですが・・根の深い問題です(笑)。

▼全米では興行収入8700万ドル。単純計算でも100億円の大ヒットでした。

＃ フライトプラン＠映画生活
＃ フライトプラン＠cinemacafe.net フォトレポ

＃ “後半に急展開を見せ、思わぬ方へ向かうが・・これ以上書くことができない”
　　→エンタメ！ブレイク？さん
＃ “当初・・主役にはショーン・ペンを想定して書かれた脚本だった”
　　→rikocchinさん
＃ “飛行機という密室で失踪？　あるいはジョディーの錯乱？”
　　→travelyuu とらべるゆう　MOVIEさん
＃ “前半は「フォーガットン」・・中盤は「パニックルーム」・・後半は・・”
　　→bobbys☆hiro☆goo☆シネプラザさん
＃ “鬼気迫るというのがぴったり過ぎて・・コマンダーと化すジョディが怖い”
　　→如意宝珠さん
＃ “主人公と彼女を取り巻く乗務員と乗客の緊迫モードを、丁寧に描いている”
　　→So-net blog:おりょんキネマさん