cancheerの考え方
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「虚妄の大学発ベンチャー」報道、ようやく

日付

2005.11.26

やっと、こういう類の報道が始まってくれたと感謝です。日経ビジネス(11月14日号)が、そのカバーストーリーで、「虚妄の大学発ベンチャー」と題する特集記事を組んでくれました。結構、勇気がいりますよね。今までは影でコソコソ言われてきただけですから。


まあ、「いいじゃないか」・・というコーナーは、
瞬間風速のニュースにコメントするものです。

今回は、英語とはまったく関係のない、昔風の『夜明け前』的記事です。


現在、この『夜明け前』サイトは、英語を学び、世界を知るという目標を掲げ、そのための様々な切り口やアイデアを提供するサイトです。日本人が世界に堂々と出ていけるようになるための応援をし、かつ僕自身にプレッシャーをかけることが目的でした。ただ、この『夜明け前』サイトは、もともと、成功を約束されていない人たちのための、挑戦を応援するサイトでした。まさに技術移転や研究開発、新規事業という、リスクの高い試みに対し、まもなくやってくる夜明けを信じてがんばろうと宣言するものだったのです。なぜなら、僕自身がその真っただ中にいた人間だからです。


余談ですが、日経ビジネスの同記事では、『千と千尋・・』に登場した“かおなし”そっくりのキャラクターが、「タックスイーター」として表現されていて、思わず噴き出しちゃいました。産学連携という美名のもと、名もなき人たちが突如として群がり、それぞれもっともらしい理由を掲げ、税金をわがものとしていく姿が、僕の中ではまさに“かおなし”とダブりました。つまり、この記事はそれだけ、昨今の産学連携に見るずさんな実態に警鐘を鳴らすものとなっていたのです。




さて、僕がこの記事を大歓迎しているのは、書いている内容にすべて賛同だからではありません。現在、あまりに、形式的で、ずさんな実態があるのは事実だからです。そのことを影響力のあるメディアが報道しないと、自己浄化は難しいでしょう。だから僕は賛同しますが、しかし、わざわざこうしてペンを取った(文章を書いた)のは、産学連携の「火」を消してほしくないとの思いからです。世の中には、必要な公共事業もあります。


ちなみに、僕の産学連携への関わり方は、どちらかと言えば、予算によって恩恵を受ける立場でした。大学の研究成果を民間に移転させる“つなぎ”の役割を担っていたのです。ただ、僕や僕の在籍した前の会社が受け取ったお金は、実質、作業に要した経費とほぼ同じ。利益を得るところまではいきませんでした。

一体、何が言いたいのか。僕からの提言を日経ビジネスのように5つの骨子にして示しておきましょう。


僕の論点具体的に言うと
「大学初ベンチャー」の育成は不要大学教官は、ベンチャーにならずに、積極的に民間企業を支援する
研究予算を受けたら使い方の情報公開を徹底上場会社と同じくらいの緊張感で、使った金額の内訳を説明させる
技術移転組織(TLO)こそ独立採算へ大学の教官をマネジメントするTLOの経営改善や戦略支援こそもっとも重要
自立志向のプロを積極活用成功報酬型でやってくれる仲介のプロ(人&企業)を積極的に中に入れよう
失敗は問わず、審査側を問う補助金を使った側ではなく、補助金の適用を決める審査員にこそ結果を問う仕組みにする


僕らがやっていたことは、大学の教官を具体的に取材し、研究テーマや技術の中身について教えてもらい、それらを調査・理解することでした。その後、プロモーションの方法を考えたり、その前段階の特許戦略について提言・実行支援なども行っていました。さらに、これらのことをイベントとして企画・実施するところまで提案するのが、当時の僕の役割でした。
慣れない技術移転機関(TLO、大学)側の対応にイライラしながらも、精一杯の時間と知恵を使って取り組んでいたのを覚えています。当時、もらえる金額はわずかでしたが、僕たちが一生懸命やったのは、各大学の教官の主だった技術を把握すれば、各企業への売り込みには自信あったからです。利益はその後からついてくる。だから、今は、多少は無理をしてでも大学での信頼関係を積んでおこうとがんばっていたのです。


ま、僕が言いたいことは以下の三点です。


1.技術ベンチャーに必要な三つの要件

上場だなどと鼻息を荒くした途端に、怪しいものがまとい始めます。僕の身近な方々でも上場を目的とされていますが、お金のことばかりに目がいき、自分が社会の何に貢献するのかを忘れてしまうプロの経営者もいらっしゃいます。ましてや研究のことしか考えていなかった大学の教官を、わざわざ公的資金でにわか経営者に仕立て、上場を目指すように仕向けることは百害あって一利なしです。


ひとつの技術が社会に還元されるためには、三つの要件が必要になります。

  ○技術やアイデアに深い見識があり、情熱がある。→創造力
  ○誰の、何に貢献するかという社会的意識がある。→社会性
  ○従業員やパートナー、資金繰りなどを管理する。→経営手法



大学発ベンチャーに、三つの要件が備わっているでしょうか。僕の個人的な見解は、ノーです。むしろ大学の教官は、既存の企業を指導することに専念してもらいたいと思います。企業なら、いつもお客さんのことを考えているでしょう。そして、現場で奮闘している社員も抱えています。僕は、そこにこそ教官の研究成果を創造力として持ち込んでもらいたいと考えています。

その上で、産学連携に資金が足りないのなら、その一部を税金で補填してもいいでしょう。商売が成功するには、忍耐力や持久力も必要です。成功とは時の運ですから、そのタイミングをつかむまで、資金や信念でしのいでいなくてはなりません。公的資金は、そんな状況にこそ生きるのです。


※それにしても、会社の設立(大学初ベンチャー)数を目標にし、設立費用に次々と税金を投じるのは、愚の骨頂だと思います。





2.お金を投じる側こそ問題

有望案件の審査には、有識者や専門家が加わっています。しかし、彼らはたいていの場合、何の責任も負いません。このことは、隠れた大問題です。お金を貸す銀行が信用供与の審査をするとき、真剣に考えているはずですよね。貸したお金が焦げつけば、自身が損をするからです。これと同じ原理が、補助金の審査にも適用されてしかるべきだと思います。

審査員は、企業や技術を評価すると同時に、指導もし、その結果責任も共有してもらいたいと思います。責任と言っても、投じて消えたお金を返せという意味ではありません。失敗だったら、その結果とともに、審査員の座を降りてもらうのです。指名責任を共有できる人(あるいは企業)を公募し、審査員に選ぶという仕組みです。


専門性が高い技術のために、どうしても専門家に審査官をさせたいという意見もあるでしょう。僕にはそれが幻想に思えてなりません。彼らは必ずしもビジネスに通じているわけではないからです。意見を言うだけの専門家が必要なときは、選ばれた審査官が専門家に協力を依頼すればいいと思います。





3.仲介という役割をもっとクローズアップ

これは、僕が、特許流通関係の小委員会に参加させてもらったときから、何度も口にしていることですが、仲介者が活躍できる舞台を作らない限り、技術移転も、特許流通も絵に描いた餅に終わります。僕の前にいた会社は、まさにその一社ですが、別にひいき目で申し上げているわけではありません。商社でも誰でもいいんです。熱心に、やってくれる人だったら、誰でもそのプロとして参加してくれればいいと思います。

その仲介役のプロが登場したとき明確になるのは、大学側の対応力です。プロは、ちゃんとした大学しか相手をしません。仲介役から見放された大学には先がありません。そんな風になれば、大学は変わらざるを得ないと思います。

今の大学の事務局の機能はあまりに貧弱です。意思決定も遅いし、外部の人材のスピードについていけないほど作業のひとつひとつがトロトロしています。しかも、大学の教官との調整すらうまくいっていません。このTLO(技術移転機関)改革こそが、産学連携の抜本的な課題なのです。機関の経営トップが変われば、必ず変わります。


僕がもし、あるTLOの経営者だったら、大学教官のタレント事務所くらいのつもりでやるでしょう。協力的な教官を選び、民間企業に対して積極的な技術相談サービスを展開したり、研究成果コンテンツを四コマ漫画で表現したりしながら、楽しくインタラクティブなサロン事務局を目指すような気がします。協力してくれるパートナーとはどんどん提携します。学生ボランティアでも、ネタをほしがるメディアでも、何でも取り込み、気付けば、他の大学の研究情報さえ集めて解説したりする、技術の総合的な駆け込み寺という役割を担わせたいです。僕のアイデアの肝は、教官を通じて集まってくる情報をマネジメントする方法論です。


産学連携とは、僕的には《開かれた大学》という意味です。しかし、現在の連携は逆行しています。「特許で守れ、教官を縛れ、予算を取れ」という三点セットで《閉ざされた大学》が作られているようでなりません。


僕が提言しているのは、別に、目新しいことではありません。すでに、実現できている大学があるのです(日経ビジネスでも紹介されています)。ぜひ、ご理解いただきたいのは、「夢のあるところに人が集まる。意志のあるところに何かが始まる。そして、責任のあるところに結果がともなう」ということです。それを具体論に落とし込むのが経営力です。


官で、会社の設立支援や審査役、仲介役までも全部やろうとする(現状のままだ)と、議論ばかり複雑になって、“かおなし”のようなタックスイーターを生み出すのです。

それが、僕の、この問題に対する回答です。




この文章は産学連携のもとで、志をもって奮闘されていた公務員の方や、大学を変えようとがんばっておられた事務局の方、そして、企業との橋渡しに前向きに取り組まれている教官の方々を慮ってのものです。タックスイーターの影に、明日の日本を考えておられる有志がいることも忘れないでください。



『知的財産管理&戦略ハンドブック』(発明教会出版)
知的財産の基礎から、その活用まで広く網羅したハンドブックの発売です。たった4ページだけ僕も書きました(笑)。


▼日経の記事に熱く反応された方々のブログをご紹介しておきます。

「“大学発ベンチャー”や“産学連携”に費やされる税金のムダ」(記事の要旨です)
「そもそも、ベンチャービジネスとは・・」(宮平先生のひと言)
「勢い全てのベンチャーが無駄であるかのような書き方、主観の取り方に腹が立つ」(なるほど)
「産学連携の名の下に、新種の税金のバラマキ策が始まっている」(バブル・・)
「大学発ベンチャーって・・アタリマエの企業」?(入れ歯ブログ、名前が最高!)
「そもそも、ここまで予算が膨らんでしまった理由」(テクノロジー投資銀行)
「産学連携=新たな公共事業」と健全な大学発ベンチャー(健全の在り方ですか)
「他人のフンドシでナンとやらと言わず・・」(誌面では犯罪者のような書かれ方)




Posted by cancheer 12:33 AM | 固定リンク
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毎日新聞が報道"日経BP:ライブドアの批判記事に反論"
毎日新聞が私が書いた記事を報道する記事を書きました。 ライブドアやヤフーに配信されたのは、記事の一部でしたが、毎日新聞のホームページでは全文が読むことができますので、引用します。
「PJニュースの補足----> 1日2万PVの責任」のサイトから
Posted at 2005.12.13 23:42
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